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「お前、随分近いところに住んでるんだな」
天狗の縄張りから出てすぐのところで人間たちの声が聞こえてきたので、唯織は近くの木に留まった。
美咲の家は山を下りてすぐの場所にある。
家の中に誰かがいるようだが、それ以前に、山の中から美咲の名前を呼ぶ声がいくつかしていた。
外はもう闇に包まれ、星が輝いている。
迷子になった美咲を心配した人間たちが山に入り、彼女を探しているのだろう。
「うん、お家のすぐ後ろがお山だから……。 おばあちゃんと紅葉狩りをしてたら、道に迷っちゃったの」
「今度からは気をつけろ。 天狗ならそこまで悪さをしないが、他にも話の分からない輩がたくさんいる。 特にこの山に入るときは、お前の爺さんかばあさんと一緒に来い」
「ねえ、また会える?」
「馬鹿言うな。 俺は天狗、お前は人間だ。 住む場所が違う」
「私、引っ越したばかりで友達がいないの。 こっちに来て初めて仲良く慣れたのが天狗さんなんだよ。 お願い、また遊びに行きたい」
よく見ると美咲はまた目に涙を浮かべている。
本当によく泣く奴だ……。
唯織は深くため息をつくと、渋々頷いた。
「山の中に、大天狗松神社と言うのがある。 その境内に天狗松という神木があるから、なにか助けてほしいことがあるときはそこに来い。 迷うほど危険な場所ではないが、念のため、最初はお前の爺さんばあさんに連れて行ってもらうといい」
「うん、分かった」
「これ、すまなかった。 洗ってやることはできないが……」
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