一章

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 一休みして宿から出ると、そこらじゅう顔見知りの船員だらけなのは少々驚いたが、一年ぶりの地面なのに今までとあまり変わらないというなんとも言えない脱力感が驚きを上回っていた。 「今日はどうするんだ?」  不意な問いに、いぶかしげに返す。 「取り敢えず知りたいことがあるから酒場に情報を求めに行くつもりだが」  船員達にそうこたえる。  それは口実で、エクシブの本当の目的は一年ぶりの酒とご馳走にありつくことである。  しかし、「へぇ、そうか」と、特に興味無さそうに返事をするわりに何故かニヤニヤしながら皆ついてくる。 「な、なんだよ?」  どうやら金を受け取ったことは知れ渡たり、エクシブのささやかな楽しみもバレているようだ。  ふと、金貨の入った袋を見つめる。 「まあ、しかたがないか」  派手に使ったとこで、まだ余りが出る金額である。  それならば。    エクシブはため息混じりにそう呟き、片手を軽く振り皆を促した。  外来者を受け入れる酒場ノ並びは時間に関係なく賑わい、そんな彼らを呑み込んでいった。
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