一章

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 妙な間の後低い声が響く。 「…………入れ」  言葉に合わせ護衛が扉を開けエクシブを誘導する。部屋は狭く、本棚と机にベッドくらいしか置いてはない。  机の前にはエクシブの署名が入った契約書を片手にこちらを見ている船長。  躰の至るところが鍛えられ、力比べなどしようものならどんな猛者もあっさり負けてしまうだろうと思われる太くて固そうな腕は、大海原で鍛えられた男の証である。 「契約書には一年間の漕ぎ手と戦闘要員とあるが、相違無いか?」 「ありません」 「この契約書通り、仕事をしてきたか?」 「はい。してきました」  次から次へとくる質問をエクシブが即答すると、船長が睨み付ける。  その眼光の鋭さにたじろくが、無駄な言動は慎まなくてはならない。  これは儀式なのだ。 「ならば、その証拠を見せてみろ」  エクシブは革手袋を装着したまま右手を船長にむかって差し出す。その言葉には、しっかりやっていれば証拠として手にオールの豆が出来ている、という意味合いが込められている形式のみの儀式なのだが……。
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