彼女見える光景

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彼女見える光景

六月十一日、僕は死ぬ覚悟を決めた。 死のうと考え始めてからもう一月が経っていた。 「明日にするよ」 唯一の友人である吉原彩にそう言うと「ふうん」と何とも気の抜けた返事をされた。 「僕が死んだら辛いだろう」 「遺書は書くつもり?」 僕の話は聞いていないらしい。 「書かないけど、なぜ遺書?」 「いや、「吉原彩に「死んだらどう?」と言われたため、死にます」なんて書かれたら、洒落にならないからね」 吉原彩はそう笑ってみせた。 「まあ、でも本当の事だしな。」 「親御様は御二人共に素敵で優しい方なのに、どうしてこんな簡単に自殺するクズが育ってしまうのかしらね」 「お前も僕と似たようなものだろう」 「最悪ね」 視線が痛い。 吉原彩の言うように僕の両親はとても優れた良い人たちだが、子である僕はどうしたことか良く育たなかった。 「クズね」「最低」「最悪ね」とはよく言われたものだ。 僕自身、両親の英才教育のおかげで良い高校に通い、東京大学も射程圏内と言うほど恵まれた環境にある。 しかし僕は死ぬことを決めた。 将来今後の展望が鮮明過ぎる程つまらない人生は無いのだ。死ぬまで延々恵まれた環境に居座る事に、僕は耐えられない。 それなら、文字通りどん底に落ちて死ぬ。 親からしたら「最悪」だろう。 「三上公園のその先だ、崖があるだろう、そこで死のうと思う。」 「結構近場で死ぬのね」 吉原彩はそう笑ってみせた。
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