0人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女見える光景
六月十一日、僕は死ぬ覚悟を決めた。
死のうと考え始めてからもう一月が経っていた。
「明日にするよ」
唯一の友人である吉原彩にそう言うと「ふうん」と何とも気の抜けた返事をされた。
「僕が死んだら辛いだろう」
「遺書は書くつもり?」
僕の話は聞いていないらしい。
「書かないけど、なぜ遺書?」
「いや、「吉原彩に「死んだらどう?」と言われたため、死にます」なんて書かれたら、洒落にならないからね」
吉原彩はそう笑ってみせた。
「まあ、でも本当の事だしな。」
「親御様は御二人共に素敵で優しい方なのに、どうしてこんな簡単に自殺するクズが育ってしまうのかしらね」
「お前も僕と似たようなものだろう」
「最悪ね」
視線が痛い。
吉原彩の言うように僕の両親はとても優れた良い人たちだが、子である僕はどうしたことか良く育たなかった。
「クズね」「最低」「最悪ね」とはよく言われたものだ。
僕自身、両親の英才教育のおかげで良い高校に通い、東京大学も射程圏内と言うほど恵まれた環境にある。
しかし僕は死ぬことを決めた。
将来今後の展望が鮮明過ぎる程つまらない人生は無いのだ。死ぬまで延々恵まれた環境に居座る事に、僕は耐えられない。
それなら、文字通りどん底に落ちて死ぬ。
親からしたら「最悪」だろう。
「三上公園のその先だ、崖があるだろう、そこで死のうと思う。」
「結構近場で死ぬのね」
吉原彩はそう笑ってみせた。
最初のコメントを投稿しよう!