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が、立ち去ることは許されず、少女は背後からの強襲を仕掛けた。
「やれやれ。最近の女の子は血の気が多いようですね」
戦場では聞くことのない、落ち着いた静かな声が、少女の耳に入った。
その時には、少女は青年に組み伏せられていた。戦いの場において、傷を負うことはあっても、身体を地に押さえつけられたことは少女にとって初めてのことだった。そして、何をされたのか理解できないことも、同様に初のことだ。
自分以上に圧倒的な者に出会い、文字通り手も足も出せない。青年は血に染められない。少女からすれば受け入れがたい真実で。
「うがああああああああッ!!」
吼えた。その咆哮は、徐々に沈みゆく太陽に吸い込まれていくかのように、余韻を残しながらゆっくりと消えていった。
「まだまだ元気ですねぇ。でもこれでわかったでしょう。貴女は私には勝てませんよ」
そっと拘束を解いて、青年は立ち上がった。
その青年を、少女は赤い瞳でじっと睨み上げる。誰もが臆するような鋭すぎる眼光で。
「中々良い眼をしている。まるで宝石のように赤く輝きを放つ眼です。髪の毛も血塗れてはいるが、素晴らしい……素晴らしい純白でしょうね、その髪は」
少女の無造作に腰まで伸びた髪の毛を見て、青年は言った。その視線は、美しい芸術品を鑑賞しているようなそれだった。
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