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「おいおい、こういう時は熱い口づけで眠りから覚まさせるのが常套手段じゃないのか?」
「……え?」
あまりにもこの状況に混乱して、空耳まで聴こえてくるようになってしまったのかと思っていると、篠田がニヤリと笑って僕を見上げていた。
「え? な……? ななななんで……?」
「痛っててて、ったく、あいつ本気でお前のこと狙ってたぞ」
死んだと思い込んでいた篠田がむくりと身体を起こしてジャケットを脱いだ。
「まぁ、これがなかったら冗談抜きで今頃あの世行きだったかもな」
「防弾……ベスト?」
その時、カランと金属音がして見てみると、一発の銃弾が転がり出てきた。
「二条を撃った時と同じ銃弾だ。見てみろ、ベストでもちょっと貫通しかかってた。けど、最後の最後でこいつが俺を守ってくれたな」
篠田がシャツの胸ポケットから取り出したのは、社員旅行に行った時、僕が篠田に買って渡した身上安全守だった。
「こいつが俺の心臓をぶち抜く銃弾から守ってくれたんだ」
「もう……本気で……し、死んだのかと……思って――」
「ったく泣くなって、男だろ。けど、よく劉のホテルにひとりで乗り込んだな」
男だって大切な人が目の前で殺されたら泣きじゃくるだろ! そんな冷静でいられるほど、僕は薄情な男じゃないよ――。
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