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朝比奈社長に連れられて、紅美はとあるカフェに来ていた。
「ここは私のお気に入りのカフェなんだ」
社長が行きつけているというからには、きっと格式の高いところなのだろうと勝手に想像していた。しかし、実際の場所は、一人のマスターが切り盛りしている小さなロッジのような静かな喫茶店だった。
「なんだか意外です……」
「あはは。悪いね、自分の趣味で連れてきてしまって。私はどちらかというとこういう素朴な店の方が性に合ってる」
「い、いいえ! そういう意味じゃなくて――」
慌てて取り繕うとしたが、朝比奈社長はにこりと笑って座るように紅美を促した。
同じ兄弟でもこうも穏やかさに違いがあるものかと紅美が思っていると、朝比奈社長がコーヒーを二つ注文した。
「ここのコーヒーは豆が違うんだ。きっと飲めばわかるから」
「はい、ありがとうございます」
都会から少し離れた場所にあるそのカフェは、丸太造りでどこからともなく自然の木材のいい香りが漂ってくる。
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