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「そっか……そんなことがねぇ」
頭の中で順序建てて話すつもりが途中で自分が何を言っているのかわからなくなってしまった。けれど、朝比奈社長は昨夜のことを概ね理解したようで、兄としてか複雑な表情を浮かべていた。
「私の祖母がそんなに有名なデザイナーだったなんて知らなかったんです。それに、このルビーにもそんな価値があるなんて……私、一体何やってるんでしょうね、なにも知らないで……」
ブラックコーヒーの表面に、自分の浮かない顔が映っている。そんな顔を見ていると、情けなくて泣けてきた。
「皆本さん、勝手な言い分かもしれないけど……」
朝比奈社長が小さく音を立ててソーサーにカップを戻すと言った。
「瑠夏のこと……誤解しないで欲しいんだ」
「え……? どういうことですか?」
「あいつは、元々そんないい加減な男じゃないんだ。君は、どこまで瑠夏の過去のことを知っているかわからないけど……婚約者に裏切られてから彼はおかしくなってしまった」
朝比奈社長は切なげに目を細めると、当時のことを思い出してか表情を曇らせた。
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