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「瑠夏が絵里にデザインした指輪は、その当時、数億の価値があるって密かに話題になってね……私も指輪が持ち逃げされるまでは、てっきり二人とも幸せなんだと思っていたよ。でも違ったんだ」
一体、瑠夏の身に何があったというのか。
紅美はドキドキと脈打つ心臓を鼓膜に聞きながら、ごくりと喉を鳴らした。
「絵里がその指輪を換金して、その頃経営の傾いていた木田宝飾のために大野に手渡したんだ。もちろんその大金の出処は公には伏せていたが……大野と絵里は瑠夏の知らないところで繋がっていた」
「そんな……」
「瑠夏から大野には近づくなと再三言われなかったか? 最後のオチを君に話さないなんて……よっぽど皆本さんには知られたくなかったんだろうな。それ以来、指輪のデザインをすることをやめたんだ」
いかにも朝比奈らしい指輪をデザインしない理由だった。朝比奈の秘密の裏で、まるで子供のような意地が交差していたのだ。
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