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楽しかった今日一日が、こんな形でぶち壊されるとは思いもよらなかった。厚かましく部屋に上がり込んだみどりは、相変わらず化粧が濃く、小奇麗にはしているが紅美にとっては所詮貧乏人の見栄っ張りにしか見えなかった。
「久しぶりね~元気にしてた?」
「う、うん……」
高校を卒業とともに母の手の届かない所へ行こうと、進学のために都心へ出てきた。祖母の葬式以来、もう何年も顔を合わせてはいない。久しぶりの親子の再会にしてはぎこちない会話が続いた。
「この前、うちの会社に電話して、しかも店長にまで話をしたって……どういうことなの?」
「珍しく本屋に立ち寄ったら、あなたのことが書かれてる雑誌を見たのよ~。あんな大手のデザイナーだなんて、お母さん鼻が高いわ」
「そういうことじゃなくて、どうして電話してきたのって言ってるの!」
白々しいみどりの態度に紅美の苛立ち限界に達してくる。思わず紅美が声を荒げると、みどりはすっと笑みを消して鼻を鳴らした。
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