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「違うよ……」
「何が違うんだよ!? 倒産寸前だったお前の会社を立て直すために絵里は、俺を裏切って指輪を換金した。そう指示していたのはお前だったんだろ?」
「だから違うんだよ瑠夏」
その大野の表情は、いつもの穏やかな笑顔はなく、切なく苦しげに唇を噛み締めていた。朝比奈は、そんな大野の様子に落ち着きを取り戻し、長い付き合いだからわかる大野の心情を汲み取った。
「話……聞いてやるから全部本当のことを話せ」
「わかったよ……」
大野は、観念したように短いため息をついて、ひとくちウィスキーに口をつけると乾いた唇を潤した。
「大学を卒業して日本に帰国してから、上々だと思っていた木田宝飾が実は多額の借金を抱えて倒産の危機だと聞かされた。それから、瑠夏と絵里は婚約して……今まで何年も三人でやってきたのに、二人だけが幸せなのが羨ましかった。馬鹿だよな……今考えるとほんと大人げない嫉妬だったよ」
大野が自嘲しながら語る。今まで明かされなかった事実に、朝比奈は黙って聞き入っていた。
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