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「なんだ大野」
『なんだ、じゃないよ! まったく、また山にこもってたんだって? 困るんだよなぁ緊急で話がしたい時に連絡がつかないようじゃ』
朝比奈が電話に出ると、勢いよく大野の怒気を含んだ声が飛び出した。大野がここまで切羽詰って焦っているのも珍しかったが、どうせくだらないことだろうと朝比奈は高をくくっていた。
「要件はなんだ」
『紅美さんのネックレスがないことにはもう気づいただろ?』
「……――」
単刀直入、予期せぬ話題に朝比奈の表情がこわばった。うまい言葉が見つからず、戸惑っていると電話の向こうで長いため息が聞こえた。
『先日、葵がうちに来ていいものを見せるとかなんとか言ってたんだけど……それが紅美さんの身につけていたルビーのネックレスだったんだよ』
「え……?」
なぜ、紅美のネックレスが葵のところにあるのか――。朝比奈は混乱していく頭を奮い立たせながら大野の話を聞いていた。
ルビーはどうしたのかと尋ねた時、紅美は失くしたと言っていた。しかし、考えてみると、紅美があれだけ大切にしていたネックレスをそう簡単になくすはずがない。
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