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「それって、あの子のため?」
「……それは、違うな」
「そう」
すると、葵はグラスをなぞる指を止めて微笑んだ。どうやら返答としては正解だったらしい。
慎重に言葉を選ばなければ、葵をここへ呼び出した意味がなくなる。朝比奈は、まるで時限爆弾を目の前にしているかのような錯覚に妙な緊張感を覚えた。
「俺の過去をようやく精算できたんだ。新しいことを始めるにはいい機会だと思ってさ……」
「なるほどね……」
「それで、話は逸れたが……どうしてお前がルビーを持っているのか大野から話は聞いた」
「まったく、おしゃべりな坊やだわね」
葵は、クスッと笑って二本目の煙草に火を点けた。
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