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木田宝飾応接室にて――。
大野はデスクにわなわなと両手をついて、がっくりとうなだれていた。
「も~そんながっかりすることないじゃない」
「がっかりする!」
「ったく、うっとおしいわねぇ~今夜の飲み代奢ってあげるから」
忙しくしているさなか、大野のもとへ突然葵が訪れた。
大野は、またアポなしできた葵に眉をひそめたが、葵から聞かされた事実に、全て頭から吹っ飛んでしまった。
「あのネックレスを……紅美さんに返しただなんて……」
「あらなに? あなた私にいくら積もうとしてたわけ? まさか自分が取り戻してあわよくばあこの子もゲットしちゃお~とか思ってたんじゃないでしょうね?」
「うぐ……」
あっさりと図星を突かれて大野は拳を握って押し黙った。
「私、しばらく海外を回ろうかと思ってるの。あのルビーのネックレスを持ってたら、やっぱりなんだか後味悪くてね」
「海外にでもどこでも行ってしまえ!」
「あら~冷たいのねぇ。でも、出発前にあなたの悔しそうなお馬鹿な顔が見れたからよかったわ、嫌なことや辛いことがあったら思い出すことにする」
「帰れ」
まるで子供のようにむすくれる大野を、葵はいつまでも笑っていた――。
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