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「――それでは、ルチアシリーズのデザイナー兼アルチェス本店の店長様にご挨拶を伺いたいと思います」
先ほどの司会の女性が朝比奈にマイクを向けると、紅美は前に来るように言われたことを思い出した。
「すみません、ちょっと前いいですか」
すでに人で埋め尽くされたその波を掻い潜り、紅美がようやく人の壁を抜け出すと、そこはなんと最前列で朝比奈の目の前だった。
「そうですね、このデザインを生み出すまでに――こ、紅――」
「はい?」
「あ、いえ……」
会見のさなか、朝比奈は紅美の姿に気づくと一瞬驚いて目を丸くしていたが、すぐさま何事もなかったかのように振舞った。
「本当は指輪のデザインを考える予定はなかったんですが、一人の女性によって気持ちが変わったんです」
「え……? その女性っていうのは」
「朝比奈さん、もしかして恋人だったりするんですか?」
「その女性というのは一体どんな方ですか?」
雑誌記者にとって、指輪の会見は二の次で、朝比奈の女性関係を探るのが本当の目的だったのではないかと勘ぐってしまうくらい雑誌記者たちはその話題に食いついてざわつき始めた。
そんな群がる雑誌記者に朝比奈は不敵な笑みを浮かべた。
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