第1章

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この事実が受け入れられなかった。お婆ちゃんの膝で随分泣いた。 納得出来ないという、理不尽な事こそ人間が不便な証明だが。 それを言っては俺達の仕事は始まらないのだから。  泣くユウちゃんとお婆ちゃんをヒゲの馬鹿が、怯えさせながら 必死の笑顔で出迎えた。正直にいうけど、こいつが相棒じゃなければ もうちょい仕事は増えるだろう。  で、依頼の概要を確認したが。さすがにまだ2年目とはいえ、 俺達だってプロだ。探すまでも無い。俺はヒゲの背中をグイグイ押した。 勿論、依頼を断れという意味だ。だが、ヒゲは俺を撫でてから言った。 「いや、これは俺達の仕事だ。改めてお引き受け致します。」と。 逆撫でしやがったから、ユウちゃん達が引き取ってから、引っ掻いてやった。  本当の事を言ってしまおう。俺も本当なら野良なんだ。 この事務所に飼われているわけじゃない。労働に対する正当な報酬として エサと寝床を受けているだけだ。だから野良の生き方を捨てた気持ちは無い。  そのうえで。野良には踏み込んで欲しくない場所がある。 聖域とかそんな大それたものじゃない。あんただって自宅の寝室に 土足で入られるのは、好ましくないないだろう?そういう意味だ。  それはヒゲっちも解ってる。こいつは無能だが、猫探偵の助手には まぁ見習いながらマシな方だからな。で?いくのか?いかないのか?  俺が扉の先へ行くと、明日、早朝に祖母様とだけご挨拶して、 以降はご家族の判断に任せようと言った。  じゃあ寝ろ。すぐ寝ろ。いつもみたいにバーボン食らって。 酒臭く寝坊したら、引っ掻くからな。その夜はすぐに寝た。  翌朝早くに浅黄さんのお宅を訪ねて、早起きの祖母様にお願いして 確認を取った。全て、俺達の予測通りだった。  縁側の下。  相変わらずヒゲの馬鹿は涙ぐんで「と、当方でお取り扱いも できますが、いかが致しましょうか。」と言って手を合わせた。 何度見てもだが。ああ、この商売は最後はヒゲが合掌するってのが 多いんだ。仕事柄しょうがないのさ。ただこの手を合わせる意味が 俺にはよくわからん。  なぁ?  光の粒になって空へ昇って行く【クリーム】へ言った。 伝言を承る。俺の唯一の仕事だから。  光の粒は言った。【オプ】さんですね。では3つお願いします。 1つ目は【ミズタマ】へ。ユウさんの力になるようにと。
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