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午後5時過ぎ。
私は1人、学校へ戻ってきた。
校庭では部活動をしている人たちで溢れ、校舎にはぼちぼちと居残りの生徒がいた。
私が向かうのはもちろんあの場所――――。
「帝先輩!!」
勢い良く鉄のドアを開け、私は屋上に飛び出した。
いつもの位置に座っていた帝先輩はびっくりして目を丸くするけど、私だと気付くと苦笑した。
「乃々香ちゃん。どうしたの?そんな急いで」
「…………」
なんて言おうか迷った。
帝先輩らしき人に睨まれた、と言えばいいのか。
3年の先輩から変な噂を聞いた、と言えばいいのか。
どちらにしても、またいつものように誤魔化されてしまったら……。
――そうだ。
今、思っていることを伝えよう。
私は、今一番帝先輩に伝えたいことを選び、口を開いた。
「帝先輩の全部が知りたいです」
「え?」
私は言葉を続ける。
「私は帝先輩に知ってもらいたいから、自分のことたくさん話してきました」
「……」
「でも帝先輩は都合の悪い質問をすると答えてくれない。私は知りたいのに、帝先輩は私に知られるのが嫌ですか……?」
いつのまにか私の目には涙が溜まっていた。
「私は……帝先輩の全部を知りたいです。嫌なことも、楽しいことも、話しづらいことも私には話してほしい! 帝先輩の全部、知りたいんです!」
「…………」
ゆっくりと、帝先輩が立ち上がった。
一歩一歩、私に近づいてくる。
「みかど……せんぱい……?」
すぐ目の前に来ても、帝先輩の表情が分からない。
「……!」
突然、帝先輩の手が私の顔に触れた。
男らしいごつごつした手。
その親指が、私の涙を拭う。
その瞬間、帝先輩が寂しそうに微笑んでいたのが分かった。
「怖いんだ」
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