この声が届くまで

３

‘ボールぶち当たり事件’

私がサッカーボールの犠牲になってから
初めての塾への登校日。

きっと

先輩は私の事には気づかない。

こないだだって何も気付いてなかったもんね。

自習室に入ってみると
いつもよりも少人数なうえ

先輩は、いなかった。

ゴーン、と頭の中で鳴り響く
除夜の鐘バリの大音響。

いや、勉強に来てるんだから
別にそんなに落胆しなくてもいいでしょ……

私は苦手な現国のテキストを出して
仕方なく自習をするはめに。

いやいや、だから、自習室に、勉強に来たんだから
いいんだってば。

長文読解の基礎中の基礎

まず、問題文に集中していた時

バサリと置かれたバッグが
私の隣の席から飛び出していて

ギョッ、としたのも束の間

見上げた、鋭い瞳と息を呑むような整った顔立ちに

一日のやる気を全部、削がれた。

「あ」

「よぅ」

あ、じゃないでしょ。あ、じゃ。

カチャカチャと広げたテキストは数学

いつも愛用している黄色のシャーペン

そして、青い大学ノート。

黄色と青で緑になるな、と考えちゃうのは
毎回で

それが今日は手に届く位置に、ある。