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自己紹介から始まり(私は既に知っていたけど)
どこに住んでるかとか(私は既に知っていたけど)
誕生日とか(一方的に私が聞きたかっただけだけど)
血液型とか(一方的に私が聞きたかっただけだけど)
自習時間をめいっぱい使って繰り出されるジャブの数々に
私は塾へゆくたびに
KOを喰らう。
先輩の優雅なその見目と
聞こえない、という事実を
全く感じさせない明るさと、優しさに。
先輩は、中途失聴者と言われているんだと言った。
左耳の聴力がなくなったのは10歳の頃
「病気で、高度難聴になった」
「右はどうなんですか?」
「右もまぁ、難聴」
だから、学校なんかには補聴器をつけて
通っている、と笑いながら言う。
「聞こえないから唇を見るようになった」
「……読唇術」
「まあ、そうだな」
「人の顔色もよく分かるし」
私をじっと見て、にこりと笑う。
「ほら、赤くなった」
それがケラケラとバカにされた笑いに変換されて
私は恥ずかしさのあまり、ソッポを向いた。
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