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『どうした?』 『何がですか』 『いや、いつもと違う杏が、目の前にいるから』 「……そうですか?」 『ちょっと、も、え、る』 一文字ずつ、指で表現する言葉は とても繊細な気持ちを伝えてくれる。 そんな期待に沿った私は 瞬間に爆発して 『あ、やっぱりいつもの杏だった』 楽しそうにケラリと笑う先輩。 髪がサラサラと綺麗な二重の目にかかる。 『ひ、ど、い』 私も負けじと一文字ずつ紡いだ右手を キュ、と取られて 先輩は自分の頬に当てた。 瞳を閉じて 温もりを確かめるように押し付ける。 「何にも無いよ……ただ今ちょっと、ゴタゴタしてて どうしても休まなきゃならない」 音になった言葉に嘘はなさそうだった。 掌は 触れる先輩の肌に緊張して 汗ばんできそう。 『せ、ん、ぱ、い?』 左手で尋ねて だけどその手も取られてしまう。 「あ、あのっ」 「杏、苛められて、ナイ?」
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