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引き留めようとするお姉ちゃんの
畳み掛けるような攻撃を
やんわりと、かつ、丁寧にすり抜けて
御剣先輩はバイクに跨がった。
『また、2週間後な?』
『はい、先輩、気をつけて』
『杏の告白に舞い上がらないようにするよ』
軽く笑って
赤い顔をする私を覗き込んだ。
手話は本当に奥深い。
手や指の動きで会話が出来るなんて
先輩と出会った当初は考えもしなかった。
ブォン、と唸るエンジン。
バイクが行ってしまってから直ぐにお姉ちゃんが私に言う。
「信じらんないね、聞こえないなんて」
お姉ちゃんは何度もこのセリフを言う。
「あんたが手話できるようになったのも信じられないけど」
「……そうかな」
私は先輩の耳、について極力触れないようにしていた。
中途失聴者とされる先輩は
少年期に病気で片方の聴力を完全に失った。
音が聞き取れるのは右耳。
でも、右耳さえもある程度の難聴がある。
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