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電車の窓枠に収まらない摩天楼。この地にはピッタリな言葉だ。そこらに生えている巨大なビル一つ一つで、俺が生まれるよりも昔からある精霊の研究をしているそうだ。
「おい聞いてんかよ勢刃(せいば)。阿呆面こいてどこ見てんヨ」
俺の名を読んだのは雷坂 蓮之介(らいさか れんのすけ)
自分の話を聞かずに昼空の風景を仰いでいた俺に痺れを切らしたのだろうか。
「いや、最初っから何も聞いてない」
蓮之介は呆れながらも一から話し始める。別に訊くつもりはなかったんだけどな。
「だからヨォ、お前その派手な赤髪のまま高校入学すんのか?」
「しょうがねぇだろ地毛なんだから。んなことよりお前は自分の心配しろよ。地毛黒のザ日本人のくせに金髪に染めやがって。高校デビューでもすんのか?」
蓮之介とは訳あって生まれてこのかた同じ屋根の下で育ってきた。幼馴染というより、こいつは俺にとって兄弟のような存在だ。
「そんなんじゃねぇ。ただ巨大学園内ってアフトクラトリア人とか、お前みたいにアフトクラトリア人と日本人のハーフみてぇは人間がそこそこ多いらしいじゃん? だから染めたんヨ。髪色豊かなアフトクラトリア人に舐められたくねぇかんな」
コイツの容姿は金髪のセンターオールバックで左耳に三つのピアス。第一印象は不良以外何ものでもないが、思考回路や性格は俺の基準の中ではいたって普通だ。要は黒髪で浮くのが恥ずかしいのだろう。しかし、どうも言動が不良染みてて痛い。
「うんもう好きにして。っつーか蓮、新しい我が家にはいつ着くんだよ。かれこれ二時間は座りっぱなし揺れっぱなしだぞ」
「まだアニミズだっての。巨大学園に着いたとしても、そっからさらに一時間しないと寮には着かねぇぞ」
「うへぇ……んじゃあ着いたら起こしてくれ。寝る」
「あっ、ズリィぞお前!」
隣で騒ぐ蓮之介は無視し、俺は大きな欠伸と共に目を閉じる。
思えば今日は、アフトクラトリア中部から上京する形で精霊都市アニミズの巨大学園に引っ越す大イベントだ。学校まであと何日か余裕があるらしいので、新しい土地に慣れるためにもそこらを探索するのも悪くなさそうだ。そんなことを遠のく意識の中考えてるうちに、俺は眠りに落ちる。
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