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『アツシ様、本当はまだ声を出すことはできないのですよ』
アツシはそれをいつも笑ってやり過ごしていた。そんなアツシのために毎日のようにタカヒロはその歌声を響かせていた。
『俺の声に、アツシ様ほどの治癒の能力があれば…』
項垂れるタカヒロの肩に手を置き、アツシは言った。
『タカヒロ、俺は感謝しているんだ』
そう言ってアツシが微笑むたびに、タカヒロは自分の力の無さを痛感していた。
自分にもっと力があれば…
「神の声」、「再生の歌声」。
アツシはそう呼ばれるほどの「歌い手」
だが自分はアツシの足元にも及ばない。「歌い手」としてこの世界に貢献できていない自分がもどかしくてならなかった。
朝も夜もタカヒロは歌い続けた。
「放浪者の搭」からタカヒロの歌声が聞こえない時はないほどに…
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