第6章

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『よく来たな、若き力たち』 その声は威厳に溢れながらも、とても温かい声だった。 王の言葉に後継者たちは頭を上げた。王は彼らの力強い眼差しをその瞳で感じて満足そうに頷いた。 『今日は君たちの新しい門出。「歌い手」の二人から、君たちに贈り物があるそうだ』 王の言葉を受けた二人が彼らの前に歩み寄り、「踊り手」たちはそれを見つめる。 アツシはタカヒロに目を向けると優しく微笑んで、タカヒロもそれに応えるように頷いて見せた。 二人の歌声が「放浪者の塔」に響き渡っていく。そしてそれを聞いていたショーキチは呟いた。 『やっぱりお二人の歌声は素晴らしい…』 『この世界に二人しかおられぬ「歌い手」ですからね』 ナオキがショーキチに言うと、ショーキチも大きく頷いた。 後継者たちは二人の歌声に聴き入っていた。美しく繊細でありながら、自分たちの心を激しく揺さぶるようなその歌声。こんな間近で聞くことができるのは、紛れもなく自分が後継者に選ばれたことの証なのだ。 五人の瞳から涙が零れていく。 二人の歌声が止まるとアツシは王に視線を送った。王はそれを見て立ち上る。 『明日、後継者としての初の役目がある。今日はゆっくりと体を休めてくれ』 「歌い手」の歌声の余韻の残る後継者たちはただ黙って頷くことしかできなかった。 『ナオキ、彼らを頼む』 王に言われたナオキは右手を胸に当てると頭を下げた。
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