謁見

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 族長が族長の座を降りる。  そこには多少の混乱が生まれる。  この大変な時期にそれをする事を族長は迷っているのだろう。  私に相談するのは、他の近しい者では混乱を招く可能性を考えての事だろうか。 「族長はこれまで国の為に尽くしてきました。もう休んでも良い頃かと思います」 「そうか、そうか。お主のそういう所がワシは好きじゃよ」  族長は椅子から立ち上がり窓の傍に寄る。  その背中には迷いの色が見え隠れする。  その迷いは今の問いにはないように思えた。  私は族長に続いて椅子から立ち上がり、少し窓に歩み寄ってから膝まづいた。 「失礼ながら族長の問いたいのは、その先、次の族長についてでは?」  族長はゆっくりと私の方を振り向く。  その顔は困ったように笑っていた。 「本来であれば息子のトロベンに譲るのが筋だろうと思う。が、トロベンも決して若くは無い。こないだの三国会談にワシではなくトロベンが行ったとしてもトロベンが最高齢なのは変わらん。それでよいのかと思っての」  トロベン様は族長のご子息。あまり会った事はないが、確かにもう若くはない。確かもう齢六十を越えていたと思う。 「では族長は誰が良いと?」 「孫のムヴィントじゃ。アイツはまだ若い。長く国を安定させる事を考えたらムヴィント程の適任はいない。が、トロベンを初め多くの者は当然、次はトロベンと思っているじゃろう。ワシが指名したとして、しっかり国が纏まるのか、それが気がかりなんじゃ」  族長の迷いを解決する答えを私は持っていない。  ただ族長は誰かに聞いて欲しかっただけではないのだろう。  率直に意見を言ってくれる者に相談しておきたいと思ったのかもしれない。  なら私なりにちゃんと答えるべきだ。 「私には族長の迷いは重すぎます。私が言える事は、これまで族長が行ってきた事に間違いがあったとは思っていません。最後もしっかりと判断して頂けると信じております」 「…………そうじゃな。やはりワシが決めねばの。すまぬ、時間を取らせた。もう下がってよいぞ。身体も翼も大切にの」 「はっ」  私は膝まづいたまま頭を下げてからスッと立ち上がって族長に背を向け族長の部屋を後にした。
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