序章 予感

2/4
前へ
/6ページ
次へ
たとえばあの時、もし雨が降っていたら。 たとえばあの時、もしあの言葉を口にしていたら。 たとえばあの時、もしあなたの背中を追いかけていたら。 たとえばあの時、、。 私の人生は変わっていたかもしれない。 もちろんこんなの馬鹿げた想像。 そんなことは分かっている。もう、過去のこと。終わったこと。 あなたはもう過去の人。 もう何度、同じことを考え、後悔しただろう。 何度同じことを考え、胸が痛んだろう。 私には、夫と、2人の子供がいる。 中学3年生と小学5年生の姉妹だ。 上の子は来年、高校生になる。 上の子は今2月の試験に向けて、塾に通いながら勉強をしている。 自分に、来年高校生になる子供がいるなんて、 改めて考えても、なんだか不思議な気がする。 ついこの間まで、 私が高校生だったのに。 いつのまにか自分はこんなにも年齢を重ねたのか。 22歳のとき、新卒で就職した会社で今の夫と出会い、 翌年に結婚をした。 両親や友達からは、 結婚するには年が若すぎるのではないかと止められた。 だけど、彼と一緒に居たい。彼の全てが手に入るならば、 そんなに嬉しいことは無い。 その想いが強かった。 彼は28歳で、責任のある仕事を次々と任される姿は、 とても魅力的で頼もしく見えた。 女子校から女子大に進学し、 一般職の事務として、中小企業に就職した私。 それに比べて、東京の有名私立大学を卒業し、 バリバリの営業として活躍する彼。 彼からプロポーズをされたのは、 付き合ってちょうど6ヶ月の頃だった。 差し出された指輪。優しい言葉。彼の真剣な眼差し。 断る理由なんて、 どこにも見当らなかった。 結婚と同時に、仕事は辞めた。 文字通りの寿退社。 入社2年目の一般職が社内結婚で退社する。 どこの会社にでもある出来事だが、 周囲は私を祝福し、私との別れを悲しんでくれた。 苦労して入社した会社を2年で辞めてしまうのはもったいない気もしたけど、彼がそれを求めたので、私は従った。 彼が望むのならば、私は構わなかった。 実際、私は幸せだった。 このまま私は彼だけに愛されて生きていくのだと思った。 私は確かに、彼の愛だけを求めていた。 彼の愛さえあれば、私は満たされるのだと。 そう信じていた。 そう、 あの人に出会うまでは。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加