序章 予感

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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 夫が私の好きな花を知っているように、 私も彼が好きな「こと」を知っている。 付き合い始める前から分かっていたことだけど、 彼はすごく真面目な人だ。 タバコは吸わない。 飲み会の席以外ではお酒はほとんど飲まない。 1ヶ月に1回は決まった散髪屋さんに行く。 女遊びはしない。 Sexは、1週間に1回。 私の父も、真面目な人だった。 父も彼と同じように、タバコもお酒も、しない人だった。 母はそんな父を、すばらしい人だと言っていた。 真面目な父を、母は尊敬していた。 私はだから、彼の真面目さに惹かれた。 家庭を築くのならば彼のような人と一緒に、 とどこかで信じていたのだろう。 付き合い始めたことから今まで、 彼は一度も何かを欠かしたことは無い。 そんな彼の真面目さが、私は好きだ。 彼との朝は、いつも「おはよう」から始まる。 夫は眠い目をこすりながら、食卓に座り、新聞を読み始める。 私は食卓にコーヒーを出す。 彼は「ありがとう」と言って、 それをすする。 そして、 7時30分に彼は家を出る。 毎朝、彼と私の間には、 決まって同じことが繰り返される。 子供が生まれてからも、 彼は、ずっと同じだ。 彼は、彼であり続ける。 真面目な男、で。 子供に対しても、いつも正しいことを言う。 人として、あるべき姿を子供に言う。 子供は夫の言うことを聞く。 きっと子育てって、こうゆうことなんだと思う。 彼との人生を不満に思ったことはない。 彼と寄り添って、彼と生きていれば、 何か大変なことが起こることもないし、 きちんと、それなりの人生が送れる。 そんな安心感が彼との生活にはあるんだ。 だから、私は、 あの人と出会ったとき、 ひどく混乱した。 自分が夫以外の男に、 こんなにも心をひかれるなんて、想像もしなかった。 夫以外の男に抱かれるなんて、 想像もしなかった。
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