第1章

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職人を、駒呼ばわりするなんて。 「………………思い出したらまた腹立って来た」 残りのビールを飲み干し、大きな声で店員を呼び付ける。 「はい!ご注文ですか?」 「ウィスキーロックでひとつ!」 「はい!かしこまりました」 ビールが入っていたジョッキをドンと机に置くと、店員さんがチラリと横目で俺を見ているのが分かった。 「あーあー。早川ちゃんまぁたスイッチ入っちゃったの? ウィスキーロックなんて、君帰ったら絶対吐いちゃうでしょーが」 呆れ声で言う児玉に、フンと鼻を鳴らしてやる。 「今日は大丈夫かもしれない。つうか、酔いたい気分になったんだよ!」 俺は何故か昔から、ビールと一緒にウィスキーを飲むと悪酔いする癖がある。 けれど、ウィスキーは飲んだその数分後に、俺を気持ち良い夢の世界に連れて行ってくれるから好きなんだ。 こうやって嫌な気分になった時には、ウィスキーを飲むに限る。 「はぁー…………まぁた俺が面倒見なきゃなんねぇのかよ。 お前も俺と同じでもう二十七歳だろ?いい加減自分で管理するか、管理してくれる女を作れ」 「うるせぇ。お前の方こそその節操なしの下半身をどうにかしろ」 お互いじとっと睨み合ったあと、子供のようにプイと視線を逸らした。 俺にはいま、彼女を作る気が全くない。 仕事がすごく楽しいし、それに入社してからは美島さんの件で大半の時間を費やしたから、 彼女を作らないでもう五年以上になる。 大学生の頃はそれなりに遊んだけれど、元々そこまで女にのめり込むタイプじゃなかったし。 そして児玉といえば、なまじ外見が良くて愛想も良い分、女が切れたことがなかった。 あっちの女こっちの女と取っ替え引っ替え、いつか背後から刺されてもおかしくないと思う。 「て言うか、むしろ刺されて目を覚ませばいいこの下半身男」 「はあ?いきなり何言ってくれちゃってんのかな、早川ちゃん?」 「あ、ごめん。心の声が漏れた」 「いつもそんな事考えてたのか、コノヤロウ」 半分本気で怒っている児玉を笑い飛ばしたところで、ウィスキーが運ばれて来た。 「早川ちゃんは可愛い顔して、性格ほんと攻撃的だよね」 ウィスキーが入ったグラスに口を付けると、呆れた視線を送りながら児玉が見て来る。 「うるせー。男は男らしくだろ」 「ガキ」 児玉の言葉を最後は無視して、そのままウィスキーをグッと口に含んだ。
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