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須藤さんが口説いている職人を、俺にも手伝えって?
心の中で同じ言葉を繰り返し、もう一度意味をちゃんと理解しようと試みる。
そして理解した上で、俺は真っ直ぐに部長を見返した。
「お言葉ですが、須藤さんほどの方をお手伝い出来るような力、俺にはありません」
というか、むしろ誰にも無理だろ。
成績トップの須藤さんだぞ?
人の手なんて借りずとも、どうせその内その職人も須藤さんに落ちるさ。
俺の言葉に部長は苦笑いをこぼしながら、また須藤さんへ視線を送った。
「えらく厳しい状況なんだよな、須藤?」
「はい。声をかけ始めて三ヶ月は経ちますが、一向になびいてくれる気配がありません」
出来る男の声でハキハキと喋る須藤さんは、
そういえばまだこの部屋に来て一度も俺を見ていない事に気付く。
だからって何だって話だけれど、癪に障るのは確かだった。
「早川、須藤がここまで手こずるなんてな、本当に珍しい。お前は須藤と真逆のタイプだし、
もしかしたら上手く行くかもしれないだろ?」
真逆だというのは分かる。
けれど、それが結果に繋がるかと言えば、やっぱりやってみなくちゃ分からない。
…………。
結局、やるしか道は残されていないんだよな、きっと。
須藤さんにも部長にも伝わるように、わざと小さく溜息をこぼしてやる。
だいたい、誰が好き好んで他の社員の営業を手伝う?
新人じゃあるまいし、みんな自分の仕事で手いっぱいだっていうのに、
たまたまキリが良かったってだけで声をかけられるのは、正直めちゃくちゃ迷惑な話だ。
そんな俺の気持ちを汲み取ったのか、部長はわざわざ笑顔を取り繕いながら俺の肩を強めに叩いた。
「そう嫌な顔をするな、早川!これが上手く行けば、担当はお前にするつもりだからよろしく頼むよ」
はぁ?
須藤さんのおこぼれを貰えっての?
ふざけてんのか、このハゲジジイ。
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