6636人が本棚に入れています
本棚に追加
結局、部長の言うお仕事の話を受ける事になった俺は、
不満で爆発しそうな胸の内を堪えながら、部屋の扉を閉めた。
先に出ていた須藤さんが、軽く肩越しに視線をよこして来る。
「早川。もう少し愛想良くしたらどうだ?仮にも営業職だろ、あれじゃ部長が可哀想だ」
腹立たしいぐらいに正しい意見を言う須藤さんに、俺は隠しもせずにジロリと厳しい視線を送った。
「すみません、あまりにも望んでいない仕事が回って来たもので」
そう言うと、須藤さんは片方の眉を軽く吊り上げながら、口の端を持ち上げる。
「ガキだな」
「っ……」
心底、ムカつく。
だいたいさ、この仕事だってもしかしたらアンタの嫌がらせじゃねーのか?
ゲームで俺を落とすなんてふざけた事言う人間だ。
仕事を使って嫌がらせして来たとしても、おかしいとは思わない。
そんな考えを堪え切る事が出来なくて、
エレベーターへ向かって歩いている中、少し大きめの言葉が口から出てしまう。
「わざとですか、須藤さん。わざと俺を選んで、何か企んでいるんですか?」
前を歩く須藤さんの足が、ピタリと止まる。
振り返ったその顔は少し冷たくて、呆れたような声色で言葉を吐いた。
「……あのなぁ、早川。俺は前から部長に、抱え過ぎている担当の職人を他の営業に振り分けろって言われてんだよ。
そこで今回の話が出て、お前を抜擢したのは部長だ。そこそこお前の能力買ってんじゃないの?」
「…………」
「だから俺はノータッチ。公私混同するなよ、ガキ」
「っ…………」
完敗。
今のは、確実に俺が悪い。
公私混同、まさにそれだ。
須藤さんはきちんと仕事をする人間で、私情を挟んだりしない。
だからこそ、過去にああいう言葉を投げ掛けて来たと言うのに、
今の俺は怒りに任せて本当に馬鹿な言葉を言ってしまった。
一気に熱が冷めて冷静に戻ると、居た堪れない申し訳なさがふつふつと湧いて来る。
言いたくない。
絶対、言いたくない。
けど。
「………………すみませんでした」
謝るべきは、俺の方。
あぁ、馬鹿な事した。
反省。
最初のコメントを投稿しよう!