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リビングを抜けて廊下を歩くと、突き当たりにドアがあった。
影山さんがそこを開いた瞬間、微かな熱気が廊下に漏れて来る。
「先生、須藤さんが来られましたよ~」
少し呑気そうな口調で喋る彼は、小動物を思わせる外見と同じでおっとりとした性格なんだろう。
「は~い」
意外にも高めの声が響き、それに少し驚いた。
柔らかな声色と、弾むような返事。
自分の中の権田太郎像が崩れかけた時、本人が目の前に登場する。
「やっだぁ~、須藤ちゃぁん、今日もイ・ケ・メ・ン!」
…………。
こ、れは。
「こんにちは、権田さん。作業中に申し訳ありません」
「いやん、私と須藤ちゃんの中じゃない。あと、権田はヤメテって言ってるでしょ~?」
ゴンちゃんって呼んで、とウィンクをする目の前の生き物に、俺の思考は完全に停止してしまう。
これは。
俗に言う、オカマと呼ばれる種族だろうか。
「あっらぁ?後ろのボクちゃんは?」
権田さんの紫がかったシャドウの目が、キョロリと俺を見る。
赤く塗られた唇が嬉しそうに開き、俺の前に一歩出て来た。
顔は、どう譲歩しても、男。
男、だ。
「はい、後輩の早川健斗です。権田さんを口説くため、秘密兵器を連れて来ました」
冗談交じりに須藤さんが言うと、権田さんが楽しそうに微笑みながら舐め回すように俺を見る。
「うふふ。上手に口説いてみせてね、ボクちゃん?」
やべぇ。
吐きそう。
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