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影山さんが入れてくれた珈琲を飲みながら、他愛のない世間話をいくつか交わす。
やっと見慣れて来た権田さんだが、事あるごとに須藤さんのイケメンぶりを褒め称え、
あからさまに口説こうとしていた。
この様子じゃ、色仕掛けでもしてやればコロリと行きそうなもんだ。
だけどそんなやり方を使うのは、営業技術のない社員だけだろう。
俺は、絶対にそんな邪道な手は使わない。
きっと、須藤さんも。
そんな風に思ってしまう自分に嫌悪感を抱いてしまうが、
須藤さんがきちんと仕事をこなす人だというのは知っている。
多分、色仕掛けなんて馬鹿な方法は使わない。
「ねぇねぇ、早川……健斗ちゃんだっけ?あなたこのお仕事は長いの?」
今まで須藤さんメインの会話が繰り広げられていただけに、
不意に自分へ話を振られ、一瞬反応が遅れそうになってしまう。
けれど何とか意識を叩き起こし、にこりと笑顔を浮かべて権田さんを見つめた。
「六年目になります」
「ふぅん。それなりに仕事は出来る……って感じね」
値踏みするように見て来るその目は、やっぱりちょっと化粧のせいか迫力がありすぎる。
それでも笑顔を崩さずにいると、急に権田さんが不敵な笑みを浮かべた。
「いいわぁ、健ちゃん……真っ直ぐそうな感じが何とも言えないわね。虐めたくなっちゃう」
正直、ゾッとした。
獲物を睨み付ける狩人のような目で見て来るものだから、その凄みと言ったら半端ない。
本当にとって食われそうな気がして、苦笑いを返すしか出来なかった。
「でしょう?俺のお気に入りなんですよ。早川はサドの本能をくすぐるんです」
小さく笑いながら言う須藤さんを、思わず横目で睨んでしまう。
今のは冗談じゃなく本心だろ。
このムッツリえろサド人間。
それって人としてどうよ?
性格腐ってるっつーの。
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