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今回は俺の顔合わせということで、長く居座らずに帰る事にした。
「また来てね」と満面の笑顔で手を振る権田さんに、俺も最後は自然な笑顔を返せたと思う。
しかし。
これは、また。
「厄介、だろ?」
須藤さんが運転する車の中、含み笑いをこぼしながら言う須藤さんに、俺は正直に首を縦に振った。
「厄介すぎますよ。美島さん以上だ」
「だろう?だから困ってんだよ」
そう言いながらも、少しも切羽詰まったように見えない須藤さんは、やっぱり余裕のある大人の男だと思う。
この難しい状況をあえて楽しんでいるような、
そんな風に見える須藤さんに意地悪のひとつでも言いたくなってしまう。
「努力はしますが、期待しないで下さい。あの人の方が俺より何枚も上手そうです」
小さく息を吐きながら言うと、須藤さんの視線がちらりと俺へ向けられる。
「言ったろ?お前の真っ直ぐさはあの人の心をくすぐるんだよ。
俺にはないお前の良い所だ、そこを使うんだな」
良い、所。
須藤さんに言われても、素直に喜べない。
その言葉の裏に、もしかしたら馬鹿にする気持ちが隠れているんじゃないだろうか、と。
色んな疑いの目が須藤さんに向いていて、俺は何も言えずにただただ黙っていた。
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