6641人が本棚に入れています
本棚に追加
/537ページ
「来ないよ」
個室の奥の席にゆったりと腰を下ろした須藤さんは、いつもの平然とした顔でそう言ってのけた。
「…………は?」
やっぱり、という思いと。
信じられない、という思い。
そして。
それでも信じて来てしまった自分に、一番腹が立つ。
「…………嘘を付くのは、人間として最低だと思います」
噴き出しそうな怒りを堪えながら、力の限り須藤さんを睨み付ける。
それでもやっぱり、須藤さんは飄々とした様子で俺を見上げていた。
「そうだな。でもお前、嘘かもしれないと思いながら来ただろう?お前にも非があるってことだ」
「ーーーーっ、最っ悪……」
とうとう心の中に抑えていた言葉が、口から漏れ出した。
だけどこれはもう、仕方がないだろ?
嘘を付かれて騙された人間に、お前にも非があると畳み掛けて来る須藤さん。
これ、最悪じゃね?
マジこの人、性根が腐ってんだよ。
「とりあえず座れよ、早川。ここまで来たんだから食ってから帰ってもいいだろ?」
自分の隣にある座布団をポンポンと叩く須藤さんを憎悪の目で睨みながら、
俺はゆっくりとテーブルを挟んで須藤さんの真向かいに座った。
どこまでも理不尽なこの人間は放っておいて、ご飯を食べたらすぐに帰る。
そう決めて、俺は烏龍茶を注文した。
最初のコメントを投稿しよう!