第5章

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腹立たしいほど自分勝手なこの男。 けれど、その仕事ぶりは正直すごかった。 何がすごいのかって、まず職人に対してとても礼儀正しい。 いや、ただ礼儀正しいんじゃなく、相手を信頼、信用し、そして尊敬の念を抱きながら接している。 それが、はたから見ていて分かってしまった。 分かってしまえば、居心地が悪いことこの上ない。 以前の俺は、職人は駒だと言ったこの人が、てっきりそういう仕事をしているんだと思っていた。 傲慢で、高飛車で、口だけは上手くて。 口車に乗せられた職人達が、もしくは利益を求めた職人が彼について行っている、と。 でも。 今回の件で、全く違った須藤さんを見てしまった。 見向きもしない権田さんに、誠意を持って楽しみながら働きかけている須藤さん。 営業回りで見た、優しく温かな職人達と穏やかに会話を交わす須藤さん。 どれもこれも、俺が想像していた須藤さんとまるで違っていた。 そんな予想外な事実に、俺は内心不思議で、そして不安定な気持ちになっている。 そんな須藤さんが。 なぜ、職人を駒だと言ったんだろう?
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