第5章

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店に着いてから、過ぎた時間は一時間半。 夜ご飯を食べ終わるには、十分過ぎる程の時間だ。 なのに何故、自分はまだここにいるのか。 そんなの、俺が聞きたい。 「…………早川、もう五杯目だぞ?」 ビールのジョッキを勢い良くテーブルに置く俺に、須藤さんが呆れたような声で話しかける。 「いいんです、酔っ払ってませんから」 そう言いながらも、気分がイイのは確かだ。 烏龍茶だけを頼むと決めていたのに、いつの間にか俺の手には生ビールのジョッキが握られている。 須藤さんにしてやられたか?なんて疑いもしたけど、多分これは自分で注文した。 確か、仕事の話になって、須藤さんが担当する職人の家具を教えてもらっていたら、 すっかりその話に夢中になってしまっていて。 こんな楽しい話、酒を飲まなきゃ勿体無い、と。 そんな事を、考えた気がする。 「もうよせよ。強くないんだろ?」 須藤さんも結構飲んでいるにも関わらず、顔色ひとつ変わっていない。 いいよな、顔に出ない奴って。 「いいんです、飲みたいんです」 少し据わった目で言うと、須藤さんの目が微かに鋭くなったように見えた。 「お前な……誰と飲んでるか、分かってんだろ?」 「須藤さんです」 「…………」 須藤さんが言いたい事は分かっていた。 相手は、須藤さん。 酒で酔っ払って、一夜を共にしてしまった須藤さん。 更に言うと、ゲームで俺を落とそうとしている須藤さん。 だけどこの人、一向に口説く素振りを見せない。 もしかしたら、あのゲームもこの人の嘘だったんじゃないだろうか。 なんて。 そんな風に思ってしまっていたから、警戒心も薄れてしまっていた。
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