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「すみません、おかわり」
「もうやめろって、早川」
呆れ切った須藤さんの手を押し退け、店員を呼び付けると空になったジョッキを渡す。
どうしてこんなに飲みたいのか、分からない。
いや、本当は、わかってる?
戸惑ってるんだ……俺。
俺の予想を裏切って、ちょっと尊敬出来る先輩に格上げされてしまったものだから、
須藤さんへの接し方が分からなくなっている。
腹が立つし、嫌いだし、最悪な性格をしているとは思うけど。
五年間根付いていた恨みの念に、少し靄がかかったようになってしまって。
百パーセント憎み切れていない自分に戸惑い、それを誤魔化したくなっている。
「……ちょっと、トイレ行って来ます」
「トイレでぶっ倒れんなよ」
ビールが入ったジョッキに口を付ける須藤さんを横目で見ながら、
俺は微かにふらつく足取りでトイレに向かって歩いて行った。
「はぁ……」
用を足した後、洗面台で手を洗いながら鏡を見つめる。
頬をほんのり赤く染め、重そうな瞼を必死に上へ上げている目は、薄く充血していた。
完全に、酔っ払いの顔。
「ウィスキーさえ飲まなきゃ……悪酔いしねぇよ……」
ポツリと独り言こぼした後、備え付けの紙で手を拭いて携帯を取り出した。
まだ理性は残っている。
いくら須藤さんが全く手を出す素振りがないとしても、もしもの時の保険をかけておく事は大事だ。
しっかり頭を働かせて、俺は児玉の番号に電話をかけた。
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