第5章

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『はいはいっと。早川ちゃん?』 電話越しに聞こえた陽気な声に、俺は一言だけ「うん」と返す。 それだけで何かを感じたのか、児玉は一瞬間を置いてから言葉を吐いた。 『…………酔ってるだろ?』 すごい、児玉。 「愛の力だな、ダーリン」 『はいはいはい、ったく何の用だよ?』 相手をしてくれないダーリンは、おそらくすでに家でくつろいでいるんだろう。 酔っ払いの電話なんて相手にしていられない雰囲気の児玉に、俺は簡潔に言葉を選ぶ事にした。 「ダーリン、すぐに迎えに来て。会社近くの「ショウちゃん屋」にいる」 ショウちゃん屋というのは、ショウさんという店長が営んでいる居酒屋の事だ。 俺も児玉も、一月に二回程利用している。 ついでに言うと、児玉は会社から十五分ほど離れたハイツに住んでいるので、ここからもかなり近い。 来ようと思えば、走って十分程で着く距離だ。 『はあ!?何言ってんの、バカ?女でもないのに迎えに行くわけないだろ』 案の定不機嫌な怒鳴り声が響いて来たが、そこはいつものように無視。 「お前が来てくれないと、マジでやばい。早く来て……来い…………来ねぇと…………てめぇ……」 『怖いからやめなさい』 これ見よがしに大きな溜息が響き、それは児玉が折れた合図でもあった。 『……誰と飲んでんの?』 「須藤さん」 『はあっ!?』 素っ頓狂な声に、思わず携帯を耳から遠く離してしまう。 その拍子で足元がグラ付き、酔いがさっきよりも回って来ている事が自分でも分かった。 『なんで須藤さんとっ?まさか二人でかよ??』 「ご名答~」 『うるせぇわ、この酔っ払い!大方、空気に耐えられなくなって酒ガブ飲みしたんだろ!このバカ!!』 怒る児玉ってのは結構珍しい。 須藤さんの名前が出たものだから、本気でやばいと感じたんだろう。 もし俺が感情のまま須藤さんを殴ったりしたらどうしよう、とかな。 優しいねぇ、児玉くん。 「だから、来いよ。連れて帰って」 『~~~~~~っ信じらんねぇ……この借りは必ず返してもらうからなっ?』 「ん。抱いてやる」 『死ね』 ブツリと電話が切れ、俺はぼーっと携帯を眺めていた。 児玉も意外と、毒吐くよな。 いや、俺がそうさせてしまってるのか? まぁ。 どっちでも、いっか。
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