第1章

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美島さんの工房から帰り、まだまとめなければいけない書類があった俺は、 日が沈みかける中一度会社へ戻った。 一階でエレベーターを待っていると、不意に背後に気配を感じる。 何となく。 本当に、何となくだけど。 ちょっと嫌な予感がして。 あえて振り向かずにエレベーターを待っていると、数十秒後に目の前の扉が開いた。 先に中へ入り、パネルの前に立つ。 そこで初めて、後ろに立っていた人物を目視した。 やっぱり。 内心悪態をつきながら、軽く視線を送り頭を下げる。 「お疲れ様です」 「お疲れ」 低いハスキーボイスが狭い個室に響き、声までイケてるなんてムカつく、とまた悪態をつく。 須藤秀次。 社内切ってのエリートで、営業売り上げナンバーワン。 短めの黒髪を少しだけ後ろに流し、いかにも男らしい眉毛に鋭く細い目。 唇は少し厚めで、それがまた男らしさを際立たせている。 身長だって185以上はあるし、170cmしかない俺としてはそこが一番羨ましかったりもする。 顔良し、スタイル良し、声良し。 頭も良いし、仕事も出来る。 女にモテて、男からは尊敬。 完っ璧な人間。 そして。 俺の、天敵。
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