第1章

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どこにでもある普通の公立高校、そこにはどこにでもあるような七不思議があった。その内の一つが、夜の校内を歩き回る赤いマフラーをした女子生徒の姿を見た者は呪われるらしい。その女子生徒は実は十年前にマフラーで首つり自殺したのだという…。 「えーっ、怖っ」 「絶対夜来たくないね…」 高い声で女の子たちがキャーキャーと騒ぐ。その騒ぎの近くにいた、木田悠香は静かにため息をついた。 「馬鹿馬鹿しい」 呟いた声はあまり大きくはなかったが、騒いでいたグループの中心である沢口朋奈は悠香の方をぎろりと睨んだ。 「なに、何か言った?」 「別に」 「あーもうあんたの顔見るだけで不愉快なんだよね。こっち見ないでよ」 朋奈の取り巻き達は悠香に対してクスクスと笑う。優越感を感じている朋奈の顔を見ながら悠香はそっと席を立った。 木田悠香と沢口朋奈は幼馴染である。家が近いというわけではないが、学区が同じで小・中と同じ学校に通っていた。お互いの仲は決して悪くなく、むしろ仲がいい方で高校が同じなのも仲がいいからというのが理由の一つであった。しかし、それらはすべて過去形である。今の彼女らを知る者は仲が良かった彼女らを想像することができないだろう。今の彼女らの関係を言葉にするならば「いじめる者」と「いじめられる者」だ。 悠香は教室から出たその足でそのまま保健室へと向かった。その間に授業開始のチャイムが鳴り響いたが、特に気にもせず保健室の扉を開ける。 「失礼しまーす」 声をかけたが、中からの返事はない。中に入ると、保健室の中心に置いてある机の上に、綺麗な文字で『今席を外しています。用のある方は入室表に記入してください。』と書かれた紙が置いてあった。 「ラッキー」 机の上の入室表にクラスと名前、そして嘘の病名を書き悠香はベッドへと潜り込んだ。
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