第二章 思い通りにいかないのが世の中なんて思いたくないけど

2/17
前へ
/17ページ
次へ
「大沼君?」 突然声をかけられた。誰だ?本能的に警戒の態勢を取る。それでなくても久々に街中に出てきて落ち着かないのだ。 今日は土曜日。健治は朝から電車を乗り継ぎ、街へ繰り出して来ていた。車は持っているが渋滞にはまるのが面倒くさいし駐車場代が勿体ない。電車も人混みが面倒だが、それでも乗っていれば時間通りには着くという利点があった。 健治は普段ほとんど街中に出ない生活を送っていた。買い物ならば近所のコンビニと通販で事足りるし、家族や友人と連れ立ってどこかへ出かけるという事もない。毎日の通勤や通学もない。つまり街中に出る理由がないのだ。理由がないのにわざわざ出かけるのは時間の無駄というものである。 健治にとって時間は貴重だった。トレードをしている時間以外の殆どはゲームか、PCを使っての情報収集に費やされていた。 情報収集と言っても、傍から見たら気の向くままにニュースサイトや掲示板サイトを行き来しているだけのことであるのだが、それは個々人の価値観と言うものだ。健治にとってのゲームやネットが、街を散歩する事よりも遥かに重要な位置づけにあるということである。 ともかく、出かけるとなると健治が普段行っているそれらの活動を中断することになる。一部はスマート・フォンでも出来なくはないが面倒だった。ネットの速度が落ちる。キーボードが使えなくなる。画面も狭くなる。出来る事が色々と制限されるのだ。 ゲームとネットに最適化された自分の部屋から、どうしてわざわざ出ていかなければならないのか。そんな思いだったのだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加