第二章 思い通りにいかないのが世の中なんて思いたくないけど

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―いや、そもそも。 健治は思った。それ以前の問題として、彼女にそんな気はないだろう。だいたい、俺と彼女じゃ釣り合わなすぎる。そりゃ確かに俺は彼女の事を嫌いという訳じゃないし、今だって可愛いと思うけど― どうも先ほどの"運命"が頭から離れず、健治の思考は勝手に恋愛方向に進んで行こうとする。健治はそんな自分を自制しようとする。 おまけに今はもう大学生だった頃の俺と彼女ではないのだ。社会人になって何年も経ち、状況だって色々かわってる。万が一、俺と彼女がここで恋に落ちたとしても、学生みたいにホイホイ付き合えるほどお互い身軽ではないはずなのだ。 変な気を起こして恥をかくんじゃないぞ、健治は自分にそう言い聞かせた。 「うん、道を歩いてたら遠くに大沼君らしき人が見えたんだ。ひょっとして?って思って走って来てみたら、あ、やっぱり大沼君だな、って。」 亜紀はさらりとそう答える。微妙に健治の期待とかみ合わない返し。健治の疑問をすっ飛ばして、偶然の再会への喜びにフォーカスした会話。 ―10年ぶりの人間をそんな簡単に?そんなものなのか? 健治の質問はそこにあったのに。そんな不思議そうな表情を読み取ったのか、しまった、という感じで、亜紀がぺろっと舌を出す。急に子供っぽい表情。 目尻に皺が生まれるのも彼女は気にしていないようだった。 「あ、私、人を見つけるのは得意なんだ。心理学の松浦先生、覚えてる?この前そこの駅の二階から一階を何気なく見たら松浦先生が居て、その時もダッシュで会いに行ったんだけど、ビックリされたよー。」 そういってふふ、と誇らしげに笑う。 「え、そこの駅って…」 健治も先ほど通ってきたその駅は、大きな吹き抜け構造になっていて二階から一階を眺めることができる。行き来する人の顔もはっきり見える。 とはいえ時間当たりで何千、下手をすりゃ何万という人が行き来する中で? 「へぇ、凄いね。俺にはとても出来ないや。」 健治はそう答えたが、本心は別のところにあった。
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