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雪子は春から保育園に行く。
妻はパートに出る。
結婚前にはケーキ屋でアルバイトをしていた。
雪子を妊娠するまでは商店街のお惣菜屋さんで働いていた。
飲食関係でランチタイム中心の短時間勤務、
そんなところから体を慣らしたいとのことだった。
「無理はしないように」
僕はそう言って応援することにした。
今の家計に彼女の収入は必要ではないが社会と繋がっていたいのだろう。
これから雪子が成長すれば出費も増え、僕の収入はおそらく頭打ちになる。
そのときにゆとりがあれば助かる。
彼女はもう一つ、新しい一歩を踏み出した。高校卒業資格の取得だ。
妻は高校を中途退学していた。
もう長い間社会に出て働いていたのだから、肩身の狭い思いはしてないだろうと思っていたのだが。
小学校受験を取り上げたテレビ番組を観て決意したらしい。
両親の学歴や服装まで考慮されると、まことしやかにコメンテーターが言う。
それを苦笑して見た僕と、泣きそうな目で見ていた妻。
「別に、『お受験』させたい訳じゃ無いの。でも、こういう価値観を持つ人が少なからず居て、これから出会う可能性は高くなるでしょう?」
途中で辞めたことが、妻の中ではしこりとなっているようだった。
そこには僕は触れられない。
コンプレックスなんてそんなもんだ。他人がいくらそんなことは大したことではないと言っても意味はない。
小さな刺がジクジクと、膿むことだってあるように。
僕にとって、彼女の学歴は問題にならなかった。
というよりも、僕が大学院を出ていてそのまま講師になっていることを過大評価してくれていることを、感謝していた。
彼女のコンプレックスと誤解を甘く享受して。
もっといい条件の男性と結婚することも出来たはずなんだよ。君は。
だから、僕は穏やかな暮らしを演出する。
彼女の望みだから。
通信制高校で月に一度のスクーリングでいいらしい。
ブランクがあるので本人は不安そうだ。
願書の下書きを繰り返し丁寧に書く妻は
可愛かった。
君には補って余りある過去があるのだろう。
光を浴びて来たのだろう。
それは、言わないのが暗黙の了解。
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