1.半月程前

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僕と妻は小さな街で知り合い、結婚した。 妻は何事もそつなくこなす一方で、何気ないことに神経を尖らせている。 例えばマンションの住人との挨拶、 ショッピングモールの喧騒 海の家での食事 サバンナの草食動物が耳をそばだてているのをドキュメンタリー番組で観たが、妻は出会った頃からそんな風だった。 おどおどしているわけではないが、妻は息をひそめている。 その事を僕に悟られないように明るい穏やかな人というふりをしている。 また僕は妻をさほど注意して見ていないように振る舞う。 結婚記念日にケーキを買う一方で、妻の髪型が変わっても一日遅れて驚いたり。 新しい服を二回誉めたり。 本を読みながら食事して、会話が上の空だとか。 「もう、しょうがないひとね」 と困ったように笑う時の妻が好きなんだ。 どうやらこの娘は、感情を、それが好意であろうと直接ぶつけられるのが苦手らしい。 付き合っているときに何度かそう思ったので。 僕は一枚のベール越しのように 愛していた。
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