2.前日

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珍しく残業となった。 明日のために雪子の好きなDVDをレンタルして帰ろう。 一本は定番のアニメ、キャラクターもの。 お姫様も好きだから長編もいいな。 実写の動物が出てるのも昔よりCGがリアルなんだよな。 ドキュメンタリーは飽きるだろうし。 しばらく前に予告を見て笑っていたのは、なんだっけ。赤い帽子のクマの。 昔、英語の教科書に乗っていたんだけど。 まだ字幕は読めないし吹き替えだって聞きとるのは無理かもしれない。 もし男の子用の仮面ライダーやロボットア二メを見せたら、後で咲子は怒るだろうか。 電車内で咲子からの着信に気づいた。 メッセージは残されていない。 三十分前と五分前の二回。 ついでにDVDの相談をしようと思ってかけ直してみたけれど、通じなかった。 ドーナツ屋の前で、ふと思いついた。 雪子はいつも一個を切り分けてもらって食べている。 たくさんのドーナツを見て選んでかぶりつくなんて喜びそうだ。 手づかみで、一口ずつ僕のと交換もいい。 口の端にチョコがついたりして。 ママに秘密だよ、って。 その想像は僕を浮かれさせるのに充分で、トレーに余白は無くなった。 甘いものは好きじゃなかったのに、娘となら一緒に食べたい。 ドーナツの長い箱を持って電車に乗るのは初めてだった。
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