2.前日

4/5
前へ
/27ページ
次へ
ドアの隙間から光が漏れる。 それを見ながら鍵を刺し幅が広くなった光の中に身をくぐらす。 何故だろう、昔からの癖だ。 帰ってくると振り返らずに後ろ手で閉めたい。特に夜は。 早くドアを閉めたくて、コートの裾を挟んだことがあるので以来気をつけているけれど。 「おかえりなさい」 咲子はパジャマにパーカーを羽織っている。通販で僕に買ってくれたのだけれど、細身で少しきつかったので咲子が着ている。 「ただいま、雪子はもう寝たの」 「眠そうだったから、早めにお風呂入れたの。さっき寝たわ」 「そっか、残念だな」 ドーナツの箱を見せる。 「たくさんね。明日……」 「大丈夫、DVDも借りてきた。安心して行ってきなよ。久しぶりにゆっくりするといい」 部屋着に着替えながら言った。 「明日、私も食べようっと」 咲子はドーナツを見ていた。 「なにこれ多すぎるよ」 やけに明るく、どれにしようかと。 楽しそうだった。 表情は見えなかった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加