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「もし、破ったら」 コクリと小さく喉を鳴らすと 応えるようにキュウと握られた手首。 「それ相応の覚悟をしてもらいます」 何かを紡ぐ度に 耳を掠める唇が、音に混じった呼気が ぞくぞくと背中を撫でる。 湿った岩場にびっしりと生える苔のように 隙間なく繁殖する何かは あたしから、ただ立つ為の力さえも 奪い取ろうとする。 体の向きが変えられる。 あたしの後ろにピタリとつきながら 背中を押されるように、歩き出し 辿り着いたのは ただの空っぽの部屋。 「ここが貴女の部屋です」 大きな窓とレースのカーテン ウォークインクローゼット そして、積まれた布団。 部屋、くれるんだ。 残念そうな自分を垣間、見てしまう 「私の部屋は真向かいです 何かあったら、遠慮なく仰って下さい」 すり抜けた手首の拘束と 離れた背中の温もりが アッサリし過ぎている事に、物足りなさを覚えたのは言うまでも無い。
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