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革靴が綺麗に手入れされていて
気持ちがいい程、ピカピカだった。
あー、あたしも荷物、取りにいかなきゃ
何にも働かない頭で
そんな事だけを考えていて。
「華」
そう呼ばれて、顔を上げる。
重なる唇。
フワリと触れて
小さく囁き
離れていく。
次にあたしが動き出せたのは
志伸さんが支払いを終えてまた、華、と
呼んだ時だった。
「ちゃんと講義、出ろよ」
もうすっかり余所行きの顔になった
志伸さん。
ポンポンと頭を撫でて
またな、と言いながら大学とは反対の方向に歩いていく志伸さん。
あたしは彼の背中を見送りながら
思い出していた。
この間の食事会での
志伸さんの言葉を。
そして、昔、告げられた言葉を。
今、囁かれた言葉を。
どれもこれも、同じモノで
とても、厳かな言葉。
言葉はあの最初に告げられた時から
言霊となり、意思を持ち続けてきた。
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