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三神センセーがバスルームへ姿を消した後 あたしは、ベランダに出て 眼下に広がる灯りを見ていた。 もうすっかり夏の空気に入れ替わってきている夜も 多少の湿り気を帯びていて でも、高層階だからだろうか 肌を這う少しの風が、不快感を和らげながら通っていく。 「キレイだなぁ……」 流れていく、小さな赤い粒が 蜿蜒(えんえん)と続いてゆく様は 本当に見事で このまま、そこまで飛んでゆきたい衝動に駆られる。 さっきよりも少しだけ勢いを増した風が 今までになく髪を揺らす。 今ここにいる事が ここで、光の箱を見ている事が 今日起こった事なんて、なかったかのように 思わせてくれる。 それくらいに、気持ち良かった。 ガタン、と音がしたのと僅かな差で 捕まれた腕 肘を包む掌が 物凄く冷たくて それよりも、こんなに余裕の無い三神センセーの 闇より黒い筈の揺れた瞳を 今までに、見た事がなくて それに心が握り潰されるかと、思った。 「三神センセー、冷たいですね」 濡れた髪から流れる水の玉が 彼のこめかみから顎まで、滴り落ちるのを ひとつ、ひとつ目で追いながら 揺らいだ直黒(ヒタグロ)の瞳を見つめて 微笑んだ。
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